キャッシュレス事業者の決算は各社赤字が目立ったようで、大型キャンペーンを打ち出しても効果が薄いということがだんだんと世間に認知されつつあるのかもしれない。ここまで投資してもなかなか普及が進まない理由は、学生を筆頭とした若者がよく理解しているということは以前のエントリーで記載した。
QRコード決済が普及しない一番の理由は、「登録がめんどくさい、めんどくさそう」に尽きると思います。
この一文は鮮明に覚えているし、その通りだと思う。自分は多くのキャッシュレス決済を試してきたが、最も若者に訴求力があるであろうと思っていたLINE Payが一番面倒だという印象が強い。今回はLINE Payの登録や関連サービスについて、現状認識するために整理した記事だ。
前提知識
LINE Payの話に入る前に整理しておかなければならない「LINE ナントカ」という概念。ここで取り上げるのはごく一部だが、LINE Payを理解するには基本となる。自分も最初さっぱりわからなかったが。
LINEウォレット
LINEアプリのなかにウォレットというメニューがある。その名の通り「財布」であり、ウォレット自体に価値があるわけではない。Apple PayやGoogle Payと同様、複数の通貨や支払い方法を管理するための入れ物だ。
LINEウォレットに格納される通貨
ではウォレットには何が入るのか?を以下にまとめた。アプリの画面からもわかる通り、基本は「円」と「ポイント」と「コイン」の3種類。正確にはクーポンやマイカードもウォレットに格納されるのだが、ここでは割愛する。
支払 | 送金 | 出金 | 説明 | |
---|---|---|---|---|
LINE Pay残高 | 〇 | 〇 | 〇 | LINE Payの基本となる通貨。現実のお金と互換性がある |
LINE Payボーナス | 〇 | 〇 | × | 現実のお金への換金(出金)が制限されたLINE Pay残高 |
LINEポイント | 〇 | × | × | LINE Pay残高に充当するか、LINEコインに変換して使う |
LINEコイン | ※ | × | × | スタンプ、キセカエなどのLINEのコンテンツにのみ利用可 |
参考:「LINE Payボーナス」を活用する : LINE Pay 公式ブログ
LINE Payの登録がややこしい理由
大きく分けると以下の認識。LINE側と銀行側それぞれ問題を抱えており、それらが複合的に一見さんに襲い掛かっているようなイメージかもしれない。
- LINEのサービスが乱立しており、各サービスの登録や利用規約の同意が多い
- 銀行の口座振替登録の手順が面倒
なお、銀行口座を登録しなくてもLINE Payを使うことは可能であるが、キャッシュレスの本質から外れるので、ここでは登録前提として話を進める。
利用者と3社が絡み合うLINE Pay
LINE Payのすべての機能を使うためには利用者側からすれば「LINE株式会社」、「LINE Pay株式会社」、「銀行」の3つの企業と関わらなくてはならない。実際にLINE Payを登録している最中に、どこの企業の何のサービスの規約に同意し、登録しているか理解している人はほとんどいないと思う。今回この記事のために利用規約を読み込んだが、まぁ難しいことこの上ない。3社との関係を整理したのが以下の図とフローだ。
# | 作業 | 説明 |
---|---|---|
1 | LINEアカウント登録 | LINEそのものを使うための登録。ほとんどの人は実施済のはず |
2 | LINE Payアカウント登録 | LINE Payを使うための登録。LINEのアカウントとリンクする ※この登録完了時点で使えるLINE PayはLINE Cashと呼ばれる |
3 | 銀行口座登録 | LINE Payで銀行口座を紐づけて使うための登録 ※この登録完了時点で使えるLINE PayはLINE Moneyと呼ばれる |
3-1 | 利用規約同意 | LINE Moneyの利用規約に同意する |
3-2 | 口座振替登録 | 銀行のシステムへログインし、銀行口座情報とLINE Payアカウントをリンクする |
LINE Cash、LINE Money とは?
聞きなれないワードが出てきたが、LINE Payには「LINE Cash」、「LINE Money」という2つのタイプが存在する。
LINEアプリの中のLINE Payの設定メニューの中(ややこしい・・)に「アカウントタイプ」という場所が存在する。そこに現在どちらのタイプかが表示されている。前述の通り銀行口座登録前であれば「LINE Cash」、登録済みであれば「LINE Money」と表示されているはず。
両者の違いを簡単に記載するが、「LINE Cash」の拡張版が「LINE Money」であり「LINE Money」の方がLINE Payの本質だと言ってよい。
アカウントタイプ | 利用上限額 | 説明 |
---|---|---|
LINE Cash | 10万円 | コンビニのレジ、セブン銀行ATM、Famiポートなどで現金チャージ |
LINE Money | 100万円 | 銀行口座からのチャージ、送金、出金が可能 |
参考:LINE Cashアカウント利用規約、LINE Moneyアカウント利用規約
アカウントの全体像を整理すると以下の通りで、LINE Payアカウントはアカウントタイプ「LINE Cash」か「LINE Money」のどちらかが有効になる。
銀行側の本人認証が面倒
口座振替登録をする場合、銀行は口座所有者本人であることを確認するために、さまざまな認証方法を用意している。7月にセブンペイが起こした不正利用問題は、この認証方法がユルかったわけだが、当然、銀行の場合はそれなりに強固な認証方法を採用している。強固であるということは、一方で面倒だということも意味している。
代表的な銀行ごとの登録手順が以下に記載されているので見てみると。
例えば、みずほ銀行の登録に必要な情報は以下の通り。
<普通預金口座の方>
・口座番号・支店・預金種別・キャッシュカード・暗証番号
・通帳(最新の残高ではなく、通帳に記帳された最後の残高が必要)
・メールアドレス
<みずほダイレクトの方>
・口座番号・支店・預金種別・合言葉 ・ログインパスワード
・お客様番号(ご契約時に交付された「8桁または10桁の数字」)
・第2暗証番号
ネットバンキングを日常的に使っている場合はそんなに苦労しないと思うが、普段キャッシュカードしか使わないとお客様番号やらログインパスワードは思い出せないし、通帳にしても家のどこかにしまってある可能性もある。LINE側がややこしいのも問題だが、実は銀行側の方がハードルを上げていることは間違いないと思う。
銀行側も動いている
銀行側もこれは問題視していて、2019年8月1日にこんな記事が出ている。
「eKYC」は過去エントリーでも取り上げているが、簡単に言うと、本人の写真と公的証明書をスマホで撮影することにより本人確認がオンラインで完結するサービスのこと。2019年8月時点ではLINE Payもメルペイも銀行口座を使わない場合はこの認証方法が使える。今回取り上げたような銀行口座を登録する場合でもこの認証方法が使えるようになれば、かなりハードルは下がるだろう。
まとめ
一般人からすると、LINE Payは「ナントカ Pay」の中のひとつであり、さらにLINEのサービス「LINE ナントカ」の中のひとつでもある。乱立した2つのカオスを乗り越える必要があるのは、やはり簡単ではなさそうだ。今回書いた内容をすべての利用者が理解する必要はないと思うが、現状のままでは「難しそう」というイメージはどうしても拭い切れない。とはいえ、スマートフォンも同じような過程をたどって今では普及しているわけだから、当たり前の流れなのかもしれない。